運のない人と距離を置きなさい

私の大先輩である中村孝氏が本を出版されました。題名は『運のない人と距離を置きなさい。』というズバリな題名でした。この題名をつけた勇気にまずは拍手喝采ですが、本を読んでみると大和ハウス創業者である石橋信夫氏から教えていただいた言葉だと理解でき、題名にした訳もわかりました。本から引用すると、『ある時、石橋さんが「運のない人とは距離を置きなさいよ」と言われた。「運のない人と付き合いしなさんな」と言われるならわかるのだが「距離を置きなさいよ」という表現がひどく引っかかった。石橋氏がなぜそのような言葉を発したかと言うと「長いこと事業をしてると、まあ、お金にまつわるいろんなことがありすぎる」とのこと。また「運のない人とおると、ろくなことあれへん、幸運を持っていってしまいよる。運のある人同士が向き合うことが大事や。だから運のない人とはできるだけ距離を置いたほうがええ」決して縁を切ることまでしなくてよいが、付き合う人をよく見ながら、距離を測って付き合うとともに、これだと思った人には懐にぐんぐん入り込んでいくことの大切さを教わった。』とありました。
この本に書かれている中村氏の半生を見てみると、絶妙なタイミングで良き人と出会い、幸運な転職や転機が訪れてきたことがわかります。中村氏曰く「運が良かった」という表現で書かれていますが、私の人生のルールにある「運はプロセスによる」からすると、実直に一生懸命目標を持って頑張ってこられたからこそ良き運に恵まれたのだと推測します。中でも、奥様との出会いから結婚は、人生を大きく変える良縁だったのだと感じました。今の中村先輩の成功があるのは奥様のおかげだと言っても過言ではありません。しかし、この縁の根幹にあるものは中村先輩の人柄があってこそだと思います。まさに運のある人同士が向き合うことが大事なことなのだと感じました。しかし、この本を読み率直に感じるのは、よくもまあ昔のことを一言一句忘れずに覚えているなあと。すごい記憶力だと、まだまだ会社は大きくなると思いました(笑)。
中村氏の成功の要因はこの本の最後に書かれている「感謝の心と道徳心を忘れずに」の項目に書かれている通りだと思います。抜粋すると『二十五歳の時に事業を始めてから五十五年。長年の事業の経験を通じて思うことは、人間としての基本、そして商いの基本ができているか、できていないか、それによってその会社が勝ち組になって生き残るか、負け組になるかが決まってくるということだ。私は朝晩に「今日はありがとうございます」「今日も社員が怪我のないように」「今日も一日、家族が、世の中の方々が、どうか幸せでありますように」とお願いをしている。今の世の中で一番大事なことは道徳心だと思う。新入社員に「わしは嘘つく人間はいらんで。勉強せんでもいい。ただし、人の道を外すなよ」人とつながっていくのに一番大切な道は絆だ。人の悪口を言いたくなったら、自分に置き換えて「ああいう話をしたら、相手はどういう気持ちになるだろう」「自分がもしやられたら、どんな気持ちになるだろう」と考えながら、一つ一つ成長していかなければならない。人の道に感謝すること、そして、ありがとうと喜ぶ心が、一番大切なことだと思っている。私が社員に徹底していっていることがある。「悪い時こそすぐに飛んでいけ」という。クレームや事故などがあった時はその原因を突き止めて、人様に迷惑かけないように対処することが大事だ。誠心誠意迅速に対処し、火が大きくなる前にくすぶっている段階で火を消すことができた。後回しにすればするほど事態は大きくなるものだ』と書かれています。
この本を読んで私は「運命は偶然よりも必然である。運命は性格の中にあるという言葉は決して等閑(とうかん)に生まれたものではない」という芥川龍之介の言葉を思い出しました。「運命は偶然ではなく必然であり、その人の性格が決める」ということ。運命は偶然であらがえないものだと思われがちだが、そうではなく、性格が決める、つまり「人間の意志が運命を変えることもある」と言う意味。運命に流されて生きるのではなく、意志を持って自分の道を進むことが大切だと改めて気づかされたように思います。昨年来、世界はコロナ禍に覆われ、不自由な生活を強いられています。しかし、大きな変化を強いられている今こそビジネスを前へ進めていく上で大きなチャンスだと感じます。私も数々の逆境に直面してきましたが、それをバネにヒントにして前へ進むエネルギーに変えてきました。閉塞感が漂う今こそ、元気になってほしいという中村氏の願いがこの本には感じられました。

参考文献
中村孝 著『運のない人と距離を置きなさい。』二〇二一年、神戸新聞総合出版センター

2022/03/01