辞める人、辞めない人

先日、仲良しのY若手経営者から手塩にかけて育てた社員が退職して、とても残念だと言う話を聞きました。彼の会社はSNS広告を販売している会社です。起業から7年、業績も毎年順調に伸ばし、社員数も27人に増えました。退職した社員は学歴も申し分なく、頭も良かったのですが、企業営業には向いていなかったので、Y氏はその社員のために独自の部署を作り、Y氏が直接指導していました。その社員からY氏に直接、「退職したい」と携帯に電話がかかってきました。起業からの7年、退職した社員は一人もいなかったとのことです。「電話口で泣いていた」と聞き、辞める社員にも相当な理由があるのかと思ったら、実は泣いていたのはY氏だったと。退職理由を聞くと、自己都合だと言い、必死で引き止めたが、すでに再就職先は決まっていて、引き止めることもできなかったようです。思わず、悔しくて、情けなくて、涙がこぼれ落ち、気が付いたら電話越しにわんわん泣いていたそうです。経営者としての辛い経験や試練は、経営者としての深みを増やしてくれることになります。この出来事を糧に成長してほしいものです。

 

私自身、社員が辞める辛い経験を数多く味わってきました。大昔、何度か引き止めた記憶がありますが、今は引き止めることはありません。また、一度辞めたいと言ってきた者は、だいたい辞めていくように思います。今まで何人もの社員が退職しましたが、誰しも急に退職したいと思うのではなく、それに至るまでにプロセスがあり退職を決意します。組織が大きくなると、二人だけの関係性ではうまく人間関係が築けていても、第三者が加わるだけで、簡単にその関係性が崩れてしまう場合も多々あります。私の場合、退社は相手の問題とし、理由はあまり考えません。どんなに退社理由を取り繕っても、社員には社員の人生があり、私には私の人生(目の前の仕事)があります。その都度前向きに受け入れて、今後に活かすことが大事なことなのかもしれません。大事なのは「立つ鳥跡を濁さず」という言葉があるように、辞め方には人としての美学が出ます。また、辞め方によっては、その後の人生もうかがい知れるので残念だと感じてしまうこともあります。

 

成長とは変化することです。小さな青虫が大きな青虫になることは、成長と言えません。なぜかというと、能力に大差がないからです。サナギに変化し、蝶になり、羽を広げることによって空を飛べるようになる。それが成長です。大事なのは、自分自身が変化するかどうかです。仕事も同じです。変化には勇気が必要です。なぜなら、一旦「蝶」に変化してしまったら、もう「青虫」には戻れないからです。成長するためには、昨日までの自分を捨てなければなりません。そうでなければ新しい自分に生まれ変わることはできません。人は変化することを嫌がります。自分を否定することが怖くて、自分を肯定しつつ成長できないものかと、もがいています。

 

世の中は変化しました。昨日まで正しかったことが、今日も正しいとは言い切れません。ついこの間まで「必要な人材」と言われていた人が「不必要な人材」に変わってしまう。これは世の中が変化してしまったからです。かのダーウィンも名言しています。生き残ったのは「強い種」ではない。「優秀な種」でもない。「変化した種」だけが生き残ったのだと。

 

私が考える、いくつかある「良い人材」の条件を挙げてみます。元気で明るい・真面目にコツコツ・営業が上手・頑固一徹で必死に頑張る・仕事が早いなどたくさんあります。これらの中で私の思う良い人材の筆頭は、「辞めない人」だと思います。どこへ行こうが、何をしようが、その社員の人生は大差ありません。理由はあれこれあると思いますが、今、目の前にあることを一生懸命にやらずして明るい未来はありません。自分の周りにいる人を悲しませて良いことは一つもないような気がします。私の成功ルールに「今、目の前にあることを一生懸命」「今、周りにいる人に喜んでもらう」というのがあります。どれだけ社員が成長するかは、どれだけ時間をその社員にかけるか、だと思います。新卒雇用をしている時、入社から半年間は社長懇親会と称し食事をしながら新卒と時間を共にしました。営業のできない新卒に対して私の役目は「信じること」「励ますこと」でした。あの時の新卒たちの嬉しそうな顔、楽しそうな顔、そして、辛そうな顔、涙した顔は、今でも私の宝物です。

 

 

参考文献 安田 佳生『採用の超プロが教えるできる人できない人 』サンマーク文庫,2006年

2021/04/01