Column 社長コラム
二刀流
花巻東高校野球部には具体的な目標を一枚の用紙に書き込む「目標達成シート」というものがあります。正方形の枠を大きく9つに分け、その1マスをさらに9分割した用紙には、目標や、その目標を達成するために必要とされる要素が細かく記されています。用紙の中央に書かれた事柄が、その選手の大きな柱となる目標になります。メジャーリーガー大谷翔平は高校入学時の目標達成シートのど真ん中に「ドラフト1位8球団」と書いていました。プロ野球のドラフト会議で8球団から1位指名されることを目指しました。そのために必要な要素として、目標を囲むように「キレ」「コントロール」「体づくり」「メンタル」「人間性」「運」「変化球」「スピード百六十三キロ」といった八つの言葉を書き込みました。163キロを目指していけば160はいけるだろう、そんな理由でスピード160キロは163キロに書き換えました。花巻東高校・佐々木監督は大谷の思考の高さに驚かされたようです。
大谷の歩んできた道には、その時、その時に下した決断がありました。「花巻東高校入学」「プロ・日本ハム入団」「メジャー・エンジェルス入団」その中でもメジャー挑戦について面談した日本ハム・栗山監督は「翔平はお金の話を一度もしたことがなかった。彼にとっての価値観はそういうところにはないんですよね。翔平は誰もやったことがないことをやってみたいんだと思うんです。結果じゃなくて、それをまずやってみる。翔平はチャレンジしてみることが嬉しくてしょうがないという価値観を持っているんです」と言います。佐々木監督は「夢も大事だし、チャレンジも大事だけど、現実として一人の人間としての生活もあるという話を。怪我もあった。その中でボールの素材変わり、日本と比べてマウンドの固いアメリカでは体の負担が大きくなって肩肘を壊すリスクもある。メジャー挑戦の前年は特に成果が出なかったし、オフには右足首の手術もある。他にもいろいろリスクはあるし、あらゆるリスクを考えた時に、もう少しじっくりやってからアメリカへ行っても遅くはないんじゃないか。なんで今アメリカへ行かなくちゃいけないの」すると大谷は「まだうまくいってないこともたくさんある。だから行くことが大事なんです。成功するとか失敗するとか僕には関係ないんです。それをやってみることの方が大事なんです」そう言い切ったそうです。自信があるとか無いとか、活躍できるとかできないとか、大谷本人は考えていない。ただ行って挑戦してみたい。高いところへ自らの身を置きたい。そんな大谷の生き方を貫ける球団を選んだのだと思います。
二刀流に懐疑的であったアメリカの野球ファンも大谷翔平の二刀流での活躍を目の当たりにして、今や次の二刀流選手を待望するようになっています。大谷は全米野球ファンの夢と希望を叶えるベースボールヒーローとして扱われるようになりました。しかし、全米ファンを虜にしたのは、二刀流での活躍だけではなく、その立ち振る舞いにありました。オールスター戦の試合後、前日はホームランダービーにも出場しヘトヘト状態だったにもかかわらず、ファンから突然サインを求められると、バックをわざわざ地面に置いて丁寧にサインをした。ホームラン王争いの真っ最中、しかも、本塁打数が失速している頃、リトルリーグの少年たちに求められるまま、笑顔でサインをし続ける大谷には尊敬の念すら感じます。多くの一流メジャー選手からも賞賛の声が上がっています。「僕はショウヘイの大ファンだ。何て素晴らしい才能だ。僕も彼と同じぐらい速い球を投げることはできるけど、彼のように打つことはできない」「本当にアンバビーブルな存在だ。この100年間、真の意味での二刀流をやった選手はいなかった。最後にやったのはベーブ・ルースだけだ。ショウヘイは100マイルを投げ、本塁打でもリーグトップクラス。投げても打ってもオールスター級さ。しかも、人間としても超一流。僕は打たれたけど(笑)、彼の活躍は嬉しいんだよね。人として素晴らしい人間には、誰だって成功を願うだろ。ショウヘイに会ったことのある人たちなら誰もが、成功してほしいと思っているはずさ」「権威ある人だけでなく、そうじゃないにも敬意をもって接している。本当に尊敬する人物だ」
2021年、大谷は二刀流として一年間怪我なく終えられるよう肉体改造を行い、シーズンの最後まで熾烈なホームラン王争いを繰り広げ、投手としても九勝し、投打の大活躍を見せました。オールスターゲームでは従来のルールさえも変更させ、1番DH兼先発選手としてリアル二刀流を魅せてくれました。全米野球記者協会の代表30人によって選出されるアメリカンリーグMVP受賞は当然だと思います。
植木屋の職人さんから、「小さな植木鉢のイチョウも庭に植え育てたら大きく育つ」と聞きました。器を大きくして育てれば、それ相応の大きさになる。人材育成も相通ずることがあると思います。逆に「お前はあれができない、これができない」と否定ばかりして育ててしまうと、それなりにしか育たないように思います。今、自由や自主性を尊重する風潮があり、自らの考えのもと行動することは大切だと思います。でも、何もわからない時期には道を示してあげることも、ある程度必要だと思います。美しい盆栽を作るには、矯正した針金をどのタイミングで外すかが重要とのことです。人材育成も、どのタイミングで自由や自主性に任せていくかが大切なことだと思います。
私自身の歩みを振り返ると、27歳で起業し、まったく矯正されることなく独立独歩で歩んできました。その分失敗も多く、苦しい場面も多くありました。会社の数も今では16社と増え、ある意味十六刀流と言えるかもしれません。還暦を迎える今思うことは「人生これからが本番」、干支が一巡し、出生時に還る今こそ、さらなる高みを目指したいと思います。本年もジャンジャン、バリバリ頑張ります。今年もよろしくお願いします。
2022/01/01