Column / 社長コラム 社長コラム

2016.07.01

ボトムアップ

デミックでは創業以来、私の強烈なリーダーシップのもと「トップダウン経営」を用いてきましたが、3年程前から「ボトムアップ経営」に組織経営の手法が変化しました。私が意識的に変化させたというより、必然的な変化だったように思います。創業時、1店舗だった店が2店舗、3店舗と増え、4年前に現在の18店舗となりました。エリアも関西、関東、四国と広がり、気がつくとスタッフの数も300人を超えるような組織になっていました。「トップダウン経営」の最大のメリットは「意思決定が素早くできる」ですが、広域に広がった店舗網では、それぞれの店舗で取り巻く経営環境が違います。私の意思決定よりも、それぞれの店舗での経営判断が必要な場面も多々あります。しかし、「トップダウン経営」を長年続けていると、「現場社員が自分で考え、自分で行動する力を無くす」デメリットが発生します。事業計画も私が「これぐらいなら出来るでしょう」、現場は「出来るはずない」とこうなります。無理やり事業計画を達成させようとすると、販促費用が余分にかかるのが常でした。「トップダウン経営」の一番苦労した点は、私自身に時間的に、能力的にも非常に負担のかかる経営手法だったということです。いつかは「ボトムアップ経営」にシフトしたいと願っていました。

ではなぜ長年「ボトムアップ経営」にシフトできなかったのか。過去を振り返り思い当たったのは、創業期に起こったアルバイトの集金使い込み事件でした。集金したお金を自分の借金返済へ流用し、回していたことが発覚しました。あの時から使い込みされるのは会社に責任がある。使い込みができない仕組みを作る、人を信じない経営を主軸に置くような考え方になりました。しかし、それはスタッフを疑ってかかることを前提にしています。当たり前ですが、疑っている相手に権限を移譲する「ボトムアップ経営」は出来るわけもありませんでした。それを、変えてくれたのはある女性飲食店経営者でした。数店舗飲食店を経営している女性経営者に「お金の管理はどうしていますか?使い込みされたりしませんか?」と質問すると「そんなこと考えたことない」と潔い答えが返ってきました。小さい自分を見透かされたようで情けない気持ちに陥りました。この気づきを深く受け止めたところから、私の「ボトムアップ経営」が始まりました。まずは信じる、とことん信じる。次に任せる、とことん任せる。あとは褒めるだけです。

目の前にいるスタッフを信じ全てを任せてみると、それまでこだわっていたことが、なんてちっぽけなものだったのかがわかりました。そして、何より気持ちが楽になりました。「自分がやらなくちゃ」とよく思っていましたが、今は「どう思う?任すわ、やってみたら!」こんな風に発言も変わってきたように思います。私はこちらの方が向いているのかもしれません。そして、一番大きな「ボトムアップ経営」の効果を実感したのは賞与の支払い直後でした。私ではなく顧問、役員、エリア長、店長と、自分たちで決めた事業計画を達成した社員たちから「ありがとうございました」とお礼の電話がありました。私は信じて任せただけなのに。経営者は口ではお金を出してあげたいと言いますが、出しすぎて業績が悪くなると返してもらえないとか、これが習慣になったらどうしようとか、出さなくてもよい言い訳を考えてしまいます。経営に自分の都合を反映さえながら結局、任せきれないんですね。

老子の言葉に「大国を治るは、小鮮を烹(に)るが若(ごと)し」という言葉があります。大きな組織を束ねることは、小魚を煮ることと似ている。やたらと手を出さずにコトコトとじっくり煮るのがうまく煮るコツだと。自分で考え、自分で行動できるまでには時間がかかります。相手を信じて任せることのできる人は、自分を信じることができる人なのでしょうね。

2016年7月

2016/07/01