Column 社長コラム
追悼・ノムさん 野村克也①
私の人生に大きな影響を与えたプロ野球選手を挙げるとすると、一番に野村克也氏が挙げられます。面識はありませんが、彼の著書の大ファンでした。著書には野球の技術論だけではなく、野球という勝負の世界で生きてきたからこそわかる人生訓が満載されています。人として生きていく術、経営者の指針になるようなことなど、わかりやすく、たくさん書かれていています。何度も読み返し、人生や仕事を考える上で、参考にした事が度々ありました。野村克也氏の文章からは、当たり前ですが、数多くの本を読み、いつも「勝つために」を考えていることが、窺い知れます。奥様の野村沙知代さんに先に旅立たれ、寂しそうな姿をテレビで拝見し、陰ながら頑張って生きて欲しいと応援していました。しかし、願い叶わず亡くなられました。心からお悔やみ申し上げます。
野村克也氏は1935年生まれ・京都府立峰山高校卒・1954年テスト生として南海ホークス入団・入団3年目レギュラー入り・4年目本塁打王・1965年捕手として世界初の三冠王・MVP5度、首位打者1度、本塁打王9度、打点王7度、ベストナイン19度、ゴールデングラブ賞1度・数々の偉業を成し遂げ不動の正捕手として南海の黄金時代を築いた・1970選手権監督に就任・1973年パリーグ優勝・1989年野球殿堂入り・1980年45歳で現役引退する日まで「生涯一捕手」を貫く・通算成績本塁打数657本・打点1988点(何れも王選手の次で歴代2位)・選手として3017試合出場(歴代2位)・監督として3204試合出場(歴代3位)・現役生活27年・著書多数(プロ野球界ではNO.1)・野球界では数少ない文化人枠の人。
私のバイブルである『小事が大事を生む』という本を紹介します。この本には小事や細事を感じる力がいかに大事であるかが、明確に書かれています。『感じる力、すなわち感性というものは、人間が生きていくうえで大切な要素の一つだ。感性がなければ視野が狭くなる。些細なことには気づくことはないだろうし、結果的に物事の本質を見失う可能性がある。感性の乏しい人間、それすなわち鈍感な人間。「小事が大事を生む」という考え方を備え、わずかな変化も見逃さずに、すぐに対応できる選手というのは必ず成長する。長嶋茂雄や王貞治、あるいは落合博満や松井秀喜はその最たる選手たちだと思う。彼らに共通して言えることは、同じ失敗を繰り返さない、または失敗を繰り返さないようにするための感性を持ち、卓越した修正能力を持っていた。同じ失敗を何度も繰り返す選手、つまりは「鈍感」な選手は、どこまでいっても二流止まり。そう断言しても言い過ぎではない。だから私は思うのだ。「人間の最大の悪は鈍感である」感じる力を身につけることは、決して難しいことではない。理想を持って、その理想にいかに近づこうとするか。そのための意識付けと努力ができるかどうか。それだけの話である。野球では、投げる、打つ、走るといった技術以外で大事なものがある。それは、「感性」「思考(頭脳)」「行動力」だ。普段の生活も、常に連動するその三つの要素があって成り立っている。「感じる力」が備わってはじめて、人は考える。「考える力」が生まれて鍛えられると、人は脳から指令を受けて「行動」に移る。当たり前のことかもしれないが、人はそれを繰り返す。逆に感じることができなければ、考える力は生まれてこない。イメージあるいは、夢や希望を抱くことができない。考える力がなければ、当然ながら感じる力も生まれない。感性が乏しい、要するに鈍感になってしまう。
私自身は、小さなことが気になるがゆえに、「感じる力」が養われていった。その時々の状況を見て、その場の空気を感じ、「感性」は磨かれていった。野球においては一球一球の積み重ねが確かな成果を生む。小さなことにこだわったから、大きなものを手にできたと思っている。つまりは「小事」「細事」が「大事」を生んだ。私の人生は、まさにそこが原点だと思う。世の中の多くの指導者や会社の経営者、すなわちリーダーの多くは「大局を見よ」、「木を見ず森を見よ」と言う。それが成功するための秘訣、あるいはリーダーとしての理念だという。組織をまとめ上げるトップたるもの、小さなことを気にしすぎてはいけない。リーダーである以上は、組織全体を見渡して明確な方向性や将来のビジョンを示し続けなければいけない。無論、その通りだと私も思う。ただそれでも、成功の中にあるプロセスという観点から考えれば、そこで生じる「小事」「細事」を疎かにしてはいけない。』
ここに抜粋した文章は、特に私が共感したところです。経営者は色々なタイプの人がいるので、「小事が大事を生む」という考え方に賛同できないという方もいるでしょう。しかし、仕事や人生で成長したいという考えを持っている方は賛同出来る方も多いのではと思います。振り返ると、過去に色々なコミュニティーに属し、多くの方々と接する機会がありました。そのときは色々なタイプの人がいるのだと、その程度に思っていましたが、最近はこの違いが人生の明暗を分けるほどの大切なことだと認識が変わりました。小事や細事にこだわっているからこそ理解できる考えの「深さ」「細かさ」、また、決断し行動するときの「スピード」「大胆さ」などが違っていたように感じます。これからも「小事が大事を生む」考え方を真ん中に置いて、自分自身の生き方、会社の成長、組織のあり方などと向き合っていきたいと考えています。
参考文献
野村 克也著『「小事」が大事を生む』扶桑社, 2015年
2020/05/01