Column / 社長コラム 社長コラム

2023.06.01

祝WBC世界一

WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)決勝の直前、侍ジャパンの大谷翔平選手が放った言葉です。「僕からは1個だけ。憧れるのをやめましょう。ファーストにゴールドシュミットがいたりとか、センターを見たらマイク・トラウトがいるし、外野にムーキー・ベッツがいたりとか。野球をやっていれば、誰しもが聞いたことのあるような選手たちがいると思うんですけど、今日一日だけは憧れてしまったら越えられないんで。僕らは今日、超えるために、トップになるために来たので。今日一日だけは、彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけを考えていきましょう。さぁ、いこう!」この後の侍ジャパンの活躍はみなさんご存知の通りです。WBCで侍ジャパンが3大会ぶりに優勝しました。準決勝、決勝と、本当にシナリオライターがいるのではと思いたくなるほどドラマチックな展開で、侍ジャパンは歓喜の瞬間を迎えました。本当にすごかったですね。
今大会WBC世界一の優勝立役者はMVPも手中に収めた大谷翔平ですね。「大谷翔平の大会」として今後も長く記憶されていくに違いありません。「打って」は東京ドームの看板直撃弾で観客の度肝を抜き、「走って」は相手守備陣の隙を突くセーフティバントやヘルメットを飛ばしての激走二塁打で魅せてくれました。そして、「投げて」は、時速100マイル以上の豪速球と大きく横滑りするスライダーで相手打者を制しました。「打って」「走って」「投げて」たった7試合で野球小僧・大谷翔平のすべてを凝縮したようなプレーを見せてくれました。その活躍には野球を愛する者なら誰しも喝采を送るに違いありません。国籍、肌の色、人種を越えて世界中のファンを魅了しました。
私の主観で、世界一への軌跡を初期段階から振り返って、世界一に大きく貢献した選手を選ぶとしたら、大谷翔平以外にダルビッシュ、ヌートバー、吉田正尚、村上宗隆などを挙げたいと思います。ダルビッシュは宮崎合宿の初期段階から集合し、ダルビッシュ塾を開校して若手選手に的確なアドバイスをしてくれました。このダルビッシュの動きがチームを一丸とさせたように感じます。ヌートバーは切り込み隊長的なキャラクターで活躍し、試合の序盤を勢いづけました。準決勝のメキシコ戦では絶体絶命のピンチを救ったのは吉田正尚の同点3ランでした。7試合で13打点と大活躍でした。そして、最後の最後で不振に喘いでいた村上宗隆がさよならヒットを放って世界一を決めました。ここに挙げた選手たちが1人でも欠けていたら日本の世界一は無かったように思います。本当によくやってくれました。感動で心震えました。
ここまでは選手たちの話を書きましたが、今WBCでの世界一への土台を築いたのは、栗山監督だと思います。優勝後の胴上げで、マイアミの夜空に10度舞いました。背番号89の栗山監督を押し上げたのは、監督自らが東奔西走して集めてきた30人の頼もしき戦士たちでした。「選手たちが本当に嬉しそうな顔をしていた。それが嬉しかった」優勝インタビューでこう語ったように、栗山監督の野球は常に選手が主役で試合が動いていきます。世界一までの7試合で栗山監督が采配を振るったのは、送りバントのサインが1回、エンドランのサインが2回ほどで、ほとんど指示を出していません。栗山監督がしたことは、どこでどう信頼して人を使うかを決断すること、でした。先発メンバーを決め、打順を決め、投手陣の系統をメインに、後は試合終盤の代打や代走、守備固めでの選手交代を決断してきました。選手を作戦で動かす采配や、奇策もありませんでした。これほど選手を信頼して勝負を委ねられる監督は他にはいないかもしれません。その信頼こそが、侍ジャパンを世界一へと導く土台となったのです。「選手を信用しても信頼はしない」これはほとんどの監督が選手に持つ心得です。栗山監督の恩師でもある元ヤクルト監督の野村克也さんもよく語っていました。日本ハム時代、特に2021年シーズンを最後に退任する直前の栗山監督も、これに近い選手観を持っていたのかもしれません。しかし、WBCではほとんど選手を信頼して、それを元に選手を起用した。背景にあるのは、自らが作り上げたチームへの自信のように思えました。
今回のWBCは総評すると、決勝まで勝ち進み優勝したのは日本でしたが、勝者は野球界そのものだと思います。日本のプロスポーツといえば野球でしたが、近年サッカー、バスケット、ラグビーなどプロスポーツの台頭で野球人気も陰りをみせていたので、今回のWBCは今後の野球界を大いに盛り上げるきっかけになるように思います。
2023/06/01